第82章 夢幻泡影
「寝てていいっスよ。オレ、ちょっとしたら鍵また隠して帰るから」
涼太は猫のように大きく伸びをして、首を左右に動かしてから優しくそう言った。
「あっ、封筒だよね、私やるから大丈夫。本当に面倒臭い事ばっかりでごめ」
そこまで言ったところで、優しく制止された。
だって、合鍵を渡せないこちらの都合に合わせて貰っているのが申し訳ないんだもん……。
大きな手は小さな鍵をつまみ、封筒へ納めた。
「スマホはちゃんと近くに置いておくんスよ」
「うん」
そうだ、スマートフォンだけじゃなく、お財布とか鍵とかも纏めて近くに置いておこう。
急に気分が悪くなったりした時に対処出来るように。
「……あれ」
「どしたんスか?」
「見つからなくて」
半ば這いずるようにして辿り着いた自分の鞄を探っているけれど、見つからない。
荷物はそんなに多くない方なんだけれど、ポーチの中に紛れたりしちゃったのかも。
「見てあげるっスよ、何探してんの」
涼太はわざわざ鞄の方まで移動して来てくれて。
体調が万全でないから見つからないのかもしれない。
さっきから甘えてばっかりだけれど……甘えさせて貰おうかな。
「鍵が見つからないの……ちょっと鞄の中ごちゃごちゃしてて」
「鍵?」
「あの、シリコン製の柴犬のキーホルダーがついてるんだけど……」
涼太に以前買って貰ったぬいぐるみキーホルダーをつけようと思ったんだけれど、汚れてしまったり失くしてしまうのが怖くて……涼太にそっくりな柴犬のキーホルダーを見つけて、それをつけて居たのだけれど。
シリコンの手触りは鞄の中でもすぐ分かるから、そんなに苦戦した事はないんだけどな……?
「ってか、探すほどモノ入ってないじゃねえスか」
「う、仰る通りで……」
涼太が探してくれても見つからないみたいだ。
「最後にいつ使ったんスか?」
「えっと……昨日帰って来た時は、涼太がその鍵で開けてくれたんだよね……?」
「うん」
さっき病院に行った時も、施錠は涼太がしてくれた。
最後に使ったのは……。