第82章 夢幻泡影
「みわ、やっぱ後ろで横になってて」
「え? 大丈夫だけど……?」
「んな真っ白な顔で言われても説得力ないっスわ」
顔を覗き込まれたと思ったら、次の瞬間にはもう涼太は車の外だった。
助手席側に回って来た彼は手早くドアを開けシートベルトを外すと、私を後部座席へとスムーズに誘導した。
「ちょっと狭いけど。ごめんね」
「あの」
「いいから。無理に寝ろってんじゃなくて、横になってるだけでいいんスから」
肩を優しく押されて、視界が傾いていく。
頭には、柔らかなクッションの感覚。
ふう、と自然に息が漏れる。
胸が気持ち悪いのには変わりないけれど、身体が横になると、不思議とさっきよりもずっと楽だ。
やっと、深い呼吸が出来た。
意地を張っているのが、涼太にはバレバレだったんだろうか。
眠気が来ているわけではないはずなのに、つい目を閉じてしまう。
肩にかけて貰ったブランケットが柔らかくてふわふわで、包まれているみたいに安心する。
「涼太……ありがとう。すごく……楽になった」
「どういたしまして」
優しくそう返してくれるのと同時に、車は発進した。
そこからはずっと会話はなくて、涼太が気遣ってくれているのだと分かったから、一分でも早く回復するように、目を閉じて過ごしていた。
「みわ、寝た方がいいっスわ」
家に帰って来て開口一番。
車でのやり取りよりも少し語気が強めだ。
「大丈夫だよ、副作用のせいだって、先生も」
「ほらほら」
涼太にコーヒーでもと思いキッチンに向かおうとしたけれど、今度は半ば強引に自室へと連れて行かれてしまった。
そのまま促されて、布団へと横たわる。
もう、何から何まで面倒ばかりかけて……胸を占めるのは不快感以上に、申し訳ないと思う気持ち。
「本当に、涼太……ごめんなさい」
「謝んないで。水飲む?」
「う……う、うん、いただきます……」
本当に何から何までやって貰ってしまって、なんなんだ私は。