第82章 夢幻泡影
沢山の後悔がある。
今思い出してしまったら、それこそ前を向けなくなってしまいそうだから……考えないようにするけれど、それこそ沢山の。
その後悔は、決して消える事はない。
薄れる事はあっても、その後悔自体が無くなることはないんだ。
分かっているのに、どうして私はまた繰り返してしまうのだろう。
涼太に、迷惑と心配ばかりかけて。
そんな気持ちを宥めるかのように、涼太が運転してくれている車は緩やかに発進した。背中にかかる少しの重力が、疲れた身体には何故か心地良い。
「今日は一日フリーなんスか?」
「あっ、うん、特に用事は入れてなかったの」
「じゃあゆっくり休めるんスね」
その横顔は、いつもの優しい彼だ。
優しくて、優しすぎて……どうしてこんなに、優しいんだろう。
「……涼太はお休みじゃないのに、ごめんなさい……」
「いや、オレも今日は自主練だから。午後にでも体育館行こうかと思ってただけだし」
涼太の大切なバスケの時間をまた奪ってしまった。
むしろ、私が会いに行かなきゃいけなかったのに。
「マジで気にしないでいいんスよ。元々みわに会いに来ただけだから」
「……ありがとう」
やっと捻り出せた謝罪以外の言葉に、涼太はまた微笑んでくれた。
「風邪引いてない? 暑いから何も着たくないって言ってたのは、薬のせいだったのかもしんないっスね……」
「あ……大丈夫、ご、ご迷惑をおかけしまして……」
目が覚めた時……裸だったのは、私が脱ぎたがったからだったのか。
陰部に塗られたという薬のせいだったんだろうか。
状況は相変わらず分からないままだし、もう、何から何まで本当にダメだ。
気が緩んだからなのか、朝よりも悪心が酷い。
吐き気というよりも、胸のあたりが気持ち悪い。
本当に吐いてしまうことにはならなそうだけれど、ずっと胸の中がぐるぐるして、気分が悪い……。
口数が少なくならないようにと涼太にあれこれお話をしようとしたら、車は路肩へと停車してしまった。