第82章 夢幻泡影
何の為に、そんな事をしたんだろう。
やっぱり……そういう"コト"をしようと思ったんだろうか。
背筋を走る悪寒はどんどん酷くなっていく。
頭をハンマーで殴られているみたいに、鈍痛が続いている。
ぼんやりする頭で、医師の話をなんとか聞いた。
陰部に……催淫剤のようなものが塗り付けられた可能性があること。
陰部が濡れていたのは……恐らくそれが原因だろうということ。
調べて貰って……一応、性交の形跡は見られないとのこと。
それを聞いて張り詰めていたものがぷちんと切れてしまったようで、椅子から立ち上がることが出来なくなってしまった。
警察への…………通報、についてもお話をされたのだけれど……正直なところ、話を大きくしたくない。
行為の形跡が見られないというこの状態で、薬物を飲まされたというだけで警察は動いてくれるんだろうか。
もし、警察に相談したとして、誰が入れたかなんてハッキリ分からないし、もし分かったとしても、薬を入れたひとはその後どうなるのか、今後のゼミはどうなるのか……そもそも、私はその犯人をどうしたいのか。
そんなことばかりを考えているうちに、すっかり疲弊してしまったんだ。
涼太は泣き寝入りをすることには絶対反対みたいだったけれど、お話を聞いてくれて……最終的には私の気持ちを尊重してくれた、のだと思う。
何が正解かなんて、分からなくて。
つい、自分が楽になる方法を選択してしまうのは悪い癖だ。
ただの同級生との集まりでこんな事があるなんて。
いつ何が起こるかなんて、本当に分からないんだ。
もっと、注意して生きなきゃ。
眠らせて、無理矢理……。
事あるごとに顔を出すのは、凌辱された記憶。
もうあれから何年も経っているのに、脳内で再生される映像は全く劣化しない。
みんな、どうしてそんな事を考えるの。
大好きなひとと抱き合う、ひとつになる、だからあんなにも気持ちが良くて、幸せになれるのに。