第82章 夢幻泡影
医師には、同級生との飲み会の途中から記憶がなくなった事、どうやら泥酔した様子だった事、今朝目が覚めてから体調が優れない事を簡潔に伝えた。
その後、下瞼の裏側や喉などを簡単に診てもらって、尿を採取するようにと赤い蓋つきのカップを渡された。
カップにはラベルが貼られており、アルファベットで何やら色々と書いてある……これが薬物検査キットというものなんだろうか。
無駄に緊張しながらも採取を終えると、5分ほどで結果が出るからと言われ一度待合室に戻ったところ。
「みわ、水飲む?」
「ううん……今は、大丈夫。ありがとう」
5分なんてあっという間だ、たった5分だもの、そう思って戻って来たはずなのに時間が経つのがあまりにも遅く感じる。
誰かがこっそりと時計の針を止めているんじゃないだろうか。
「101番でお待ちの患者様」
「っ、はい」
余計な事ばかり考えていたからか、声が上ずってしまった。
ずっと右手を包んでくれていた大きな手が、温かかった。
「検査の結果が出ましたが……」
医師の口から続いて出たその薬の名前は、私も知っているものだった。
どんなに頑張っても眠れなかった時に、ネットで検索して睡眠導入剤や睡眠薬の類を沢山調べた。
その中に、この名前を見たから。
それはつまり……やっぱり、お酒の中に薬を入れられていたということ。
医師は、続けて説明してくれた。
その薬は、お酒に入れると液体が青色に着色されること。
個人差はあるものの、飲んでから約15分〜20分ほどで効果が現れること。
薬を飲んだ本人は、薬を飲む数十分前から記憶が消えてしまう可能性があること。
そして、薬を飲んだらすぐに眠ってしまうわけではなく、身体は動かなくても暫くの間はぼんやりと意識があり、受け答え出来る状態が続くから……この間にレイプ最中の写真や動画を撮られ、"和姦"と主張される恐れがあること。
あまりに恐ろしい説明に、言葉が出てこない。
青いお酒を飲んだかなんて、記憶にない。
本当に、トイレを最後に記憶が全くないんだ。
どれだけ思い出そうとしても、何も脳に浮かばない。