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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第29章 事件


「とりあえずはこれくらい着替えあれば大丈夫っスかね。下着以外なら、足りない時オレも買って来れるし」

「……ありがとう……ごめんね、ちゃんとお金払うから」

衣類の他に、歯ブラシなどの日用品も揃えて貰ってしまった。

突然のことだったので、貯金を下ろさないと持ち合わせがない。

「いいっスよ、気にしないで!」

「だめ、そんなの……絶対返すから」

こんな風に、一緒に暮らす準備をする事になるなんて思いもしなかった。

黄瀬くんのマンションに入る。
オートロックを抜けると変わらぬ豪華さで、その非日常感に、少しだけ救われた。

「大丈夫? 疲れたっスよね。今、飲み物入れてくるから座ってて」

じわりと全身から不快な汗をかいている。
暑さのせいだけではないだろう。

どこにいても、歩いていても、ひとの視線が気になってしまって仕方がない。

まだ、震えが止まらない。

「はい、みわっち……みわっち?」

「あ、ありがとう」

冷たいお茶を喉に通すと、少しだけ気分が良くなった。

「みわっち、こっちおいで」

黄瀬くんが手を広げて招いている。
近付くと、優しく、柔らかく抱きしめてくれた。

髪を優しく撫でてくれる。
体全体を包み込んでくれている。
守られてる。

ついさっきまで、家の中でも視線が気になって仕方がなかったのに、不思議とこの腕の中にいると、不安が薄らいだ。

「怖い?」

「……落ち着く……」

ありがとう……。





しばらくして、部屋を案内して貰った。

「この部屋元々空き部屋っスから、とりあえずここがみわっちの部屋ってことで使って」

「……ごめんなさい……」

「なんで謝るんスか?」

「私、いつも……迷惑かけてばかりだから」

「なぁーに言ってんの。ひとり暮らし始めて良かった。むしろもっとオレを頼って欲しいくらいっスよ」

ポンポンと頭を撫でてくれる。
ささくれ立ったこころが、和らぐ。

「とりあえずお客さん用布団持ってくるっスね」

黄瀬くんが部屋から出て行く。
ガタガタとどこかの棚を開けている音がする。

そうだ、郵便物が結構あった……。

少し落ち着こう。いきなりあんな事があって混乱してるんだ。

とりあえず一息ついて、鞄に詰め込んだ郵便物たちを確認し始めた。



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