第5章 ふたりきり
あ、これ、夢の中だ。
時々分かるんだ、夢って。
……場面は、懐かしい実家の私の部屋。
ドアがノックされ、返事を返す前に男が顔を出す。
「来ないで……!」
振り絞って声を発しても、男は覆い被さってくる。
ビクともしない。
「やっ……」
時々見る、いつもの夢だ。
何回でも、何回でもフラッシュバックする。
誰も助けてはくれない。
でも、ここからはいつもの夢と違っていた。
突然誰かに手を引かれて走り出して、気が付けば先ほどとは場面が変わっていた。
この背中……黄瀬くん?
黄瀬くんが、私の手を引いて走っている。
どこへ向かうんだろう。
ありがとう、黄瀬くん。
ありがとう……
私のものではない体温を感じる。
目を開けて、間近に人間の胸があるのに気付いて、しばらく惚けてしまった。
私、黄瀬くんが寝付くまでっていう話だったのに、すっかり一緒になって寝ちゃった!?
も、もう帰らなきゃ……。
焦って黄瀬くんの腕から抜けようとしたら、先ほどまでとは違う強い力で抱き締められた。
「ん〜……さむい……」
えっ、えっ、寝ぼけてる!?
「ちょ、ちょっと、わたし、もう帰らないと……」
そもそも今何時?
外はすっかり暗いようだけれど。
こんなにも長く、男の人に触れていられるのが不思議。
どうしてだろう……この人は信用しても大丈夫かもしれない。
自分の中の本能が、そう言ってる気がした。
でも……とりあえず今は帰らなきゃ!
その時、黄瀬くんの指が私の耳に優しく触れた。
「!?」
それに続いて、黄瀬くんの唇が耳に触れる。
熱い舌で、耳朶を刺激される。
電撃のように走る感覚に、私は思わず声をあげていた。
「あっ……」
逞しい身体とは裏腹な、柔らかい唇の感触。
「ちょ……あ、きせくん……?」
息がかかる。
耳を刺激されているだけなのに、つま先まで痺れていく感覚に陥る。
なに、これ。
こんなの知らない。
どうしちゃったの、わたし。
どうしたらいいの!?
「はっ……あっ、あの、ちょっと……」
なんとか抵抗を試みると黄瀬くんの動きが止まり、代わりに聞こえてきたのは
「ぐー……」
安らかな、いびき……
こ、この……
「お、おきなさーい!」
私の叫びとともに、ぺちーんという音が部屋中に響き渡った。