第5章 ふたりきり
服の上からでも分かる、筋肉質な身体。
身体が熱くて……
熱くて……
あつ……
熱?
待って。
私、風邪で寝込んでる人のところで何をしてるんだーー!
「わーー! ちょっと待って、ごめんなさい! 黄瀬くん、寝て、寝て!」
散々泣かせて貰っておいて、今度はじたばたする私。
少しだけ間をおいて、黄瀬くんが吹き出した。
「ぷっ……ちょ、ちょっとみわっちいきなりどうしたんスか」
「だって! 熱で! 寝込んでるのに! 私今、自分の事しか考えてなかったの! 本当にごめんなさい! 帰るね!」
もう! なんでこうなっちゃうの!
自分のことばっかり考えて……!
変わらずバタバタする私。
でも黄瀬くんは、腕を解かない。
「あ、あの、黄瀬くん……?」
「ん……も少し……このまま」
強引さは微塵も感じないけれど、何故か振りほどくことはできなくて。
「もう……ごめんなさい……突然自分勝手に話し出して、恥ずかしい……」
なんて自分勝手。
なんて酷い。
「そうやって素直に謝れちゃうのがみわっちのいいトコっスね」
それなのに、彼の口から出た言葉は優しすぎて。
「う、寛大な評価に恐れ入ります……」
「みわっち、いいニオイ」
髪をくんくんと犬のように嗅がれるんだけど……
いえ、先ほどからいい匂いがするのはあなたです。
「嫌なこと……話させて辛かったっスよね」
髪を優しく撫でてくれて……指で梳かれたと思ったら、突然視界が横転した。
黄瀬くんが、私を抱き締めたまま、ベッドに横になったのだと気が付いたのは、少し経ってから。
「オレが……」
そこまで聞こえて、後半は寝息になっていた。
え?
え、ええっと……?
どういうこと?
これ、どういう状況?
とりあえず今、分かるのは……。
これは、あの、帰れないというやつ、でしょうか……?
規則正しく上下する胸。
微かに聞こえる寝息。
抱き止められた腕。
もう、一体何が起きているのか、頭の中はぐるんぐるんと回って受け止めきれずにいた。
こんなにも男性の胸の中が心地よいなんて。
どういう事?
どういう事なの?
とくんとくんと高鳴る鼓動を隠しきれずにいたけど、だんだんと意識が遠くなっていった……。