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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第82章 夢幻泡影


「オレも一緒に行くから……聞かれたくない話の時は、ちゃんと席外すから」

覗き込まれた琥珀色の瞳からは、私を心配してくれる気持ちが窺える。
……涼太にこんなに気を遣わせて何やってるんだろう。
応援どころか、力になるどころか足を引っ張るばかりだ。

「何飲まされたのか分からないままでは、いられないっスわ」

「ごめんなさい……そう、だよね」

そうだ。
どんな薬か分からないから、副作用とか……この悪心の原因も、ハッキリしない。

自分のせいでこんな状況になっているというのに、あれはヤダこれはヤダと言っていられない。

「検査だけはとにかくしてみて、そのあとは……うん、みわの気持ちに任せるっスよ」

「うん……」

検査。検査をしに、病院へ……。
立ち上がり、一歩を踏み出そうとして……足が、動かない。

「大丈夫?」

「大丈夫……ありがとう。行くよ、病院」

検査するだけだから。大丈夫、大丈夫。
まるで象さんのような足取りで、歩こうと試みる。

「みわ、前まで車持ってくるから待ってて」

「ううん、私も駐車場まで行くよ」

ささっと移動しなきゃいけないのは分かっているのに、重い身体と足はなかなか前へ出て行ってくれない。

「いいんスよ、玄関で靴履いて待ってて」

「……ごめんね。ありがとう……」

私は、早々に観念した。
このペースじゃ、一緒に歩く涼太に迷惑をかけてしまう。

涼太は優しく微笑んで、小走りで部屋を出て行った。

なんとか部屋まで戻って、鞄を手にする。
また手が震えている事に気がついて、喝を入れるようにペシリと叩いた。

のろのろと玄関まで移動して、履き慣れたスリッポンに足を入れた。

きっと自分で思っていたよりもずっと長い時間を使ってしまったんだろう。涼太は間もなく玄関ドアの向こうから現れた。

息が弾んでいる。きっと急いで行ってくれたんだ。

「オレ閉めるっスよ」

涼太はそう言って、手にしていた緊急用の鍵で施錠してくれた。

足取りは重いままだったけれど、支えられながら、車へと向かった。






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