第82章 夢幻泡影
起きてからパニックを起こしていた時に比べるとだいぶ気持ちは落ち着いたけれども、それでも記憶が戻ってくる気配はない。
また変な事を言っていると、困らせてしまうだろうか?
「あの、さっきね、寝たら忘れたって言ったんだけど、私……涼太と電話でお喋りしてから、なんにも覚えていなくて」
「え?」
涼太は、ここにきて初めて不信感を露わにしたような表情をした。
「それ、どういう意味スか」
また、余計な心配をかけてしまっているのだろう。
なんて失態を犯したのだ、私は。
「あの、トイレから戻ってまた飲んだんだとは思うんだけれど、なんにも記憶がないの……あれかも、色んな種類のお酒を交互に飲んだりとかしちゃったのかも」
前にあきが、ワインや日本酒をちゃんぽんに飲んだから酔ったとか、そんな事を言っていた記憶がある。
もしかしたら、私もそれだったのかもしれない。
「全くないんスか? どんな酒頼んだのかとか飲んだとか」
「うん……ないの。飲み残しは良くないって聞いてたから、お手洗いに行く前にグラスは空にしていったよ。だから、戻ってから新しく何かを頼んだんだとは思うんだけれど……」
「……」
「頼んだとか、それ以前にね……トイレから出たのかも、なんにも覚えてないんだ」
涼太は、考え込むようにして黙ってしまった。
ああ、情けない。
反省しかない。疲れてる時にお酒なんて飲んじゃいけなかったんだ。
油断していた。
「涼太……」
「トイレ行く前に誰かとなんか話した?」
「え、うん? うん、普通の飲み会だから、メンバーとお話はしたよ」
話の内容をと言われると……付き合ってるひとはいるのかとか、休みの日はどこに行くのかとか、そんな話題ばかりだったかな。
「いや、そうじゃなくて……飲み会抜けようとかそういう話」
涼太の発言に、驚いて口をあんぐりと開けてしまった。
「涼太は……超能力者なの?」
なんで分かったんだろう。
涼太って時々、こういう所がある。