第82章 夢幻泡影
「あの……ごめんね。昨日私、酔っ払っちゃったみたいで」
普段、こんな風に酔う事なんて絶対ないから、油断していたのかもしれない。
昨日はきっと飲みすぎてしまったんだろう。
「飲んだら電車乗るの辛いかなって思って迎えに行ったんスけど……行って良かったっスわ。あんなにベロベロになってるとは思わなかったから」
「えっ……あ、涼太、迎えに来てくれたの……?」
涼太が、迎えに来てくれたんだ。
彼の発言から、どうやら私は泥酔状態だったらしい。
「ぶ、寝たら忘れちゃったんスか?」
「……うん、忘れ、ちゃったみたい」
忘れる、という単語は、私の中で様々な意味を持つ。
どちらかと言えば、私は記憶力は良い方だ。
でも……精神的に脆い部分があるのは事実。
過去の記憶は、その殆どを失ってしまっている。
どちら、なんだろう。
本当に……人生初めての泥酔を経験して、ただ忘れてしまったんだろうか。
それとも、何か嫌な体験をした……?
「疲れてたんじゃないスか、またスケジュール詰めてやってんでしょ」
「うん……そうだね。そうかも」
やっぱり疲れが出て、いつもよりも酔いが回ってしまったんだろう。
「全然酔ってないって言いながら、車乗ったら瞬殺だったっスもんね」
え……私、涼太とお話したんだ。
ベロベロ、っていうくらいだから、もう寝ているような状況なのかと思ったのに……。
「みわ?」
「涼太、私とどこで会ったの?」
「え? 店の前。もう帰ったかと思ってメッセージ入れようと思ったら、みわが支えられながら店から出てくるトコで」
「支えられながら……」
ダメ、手がかりになりそうな事を聞いても、本当にピンとも来ない。
「誰だった? って聞いても分からないよね。……タケさん、かなぁ」
「お、それは覚えてるんスか」
「あ、ううん、ゼミの女の子から貰ったメッセージにそんなような事が書いてあったから」
「うん、ソイツ。すげえ親しげな感じだったけど黙らせた」
……涼太が表情も変えずにさらりとそんな事を言うから、それについては言及出来なかった。
やっぱり、タケさんだったんだ。
抜け出すのはお断りしたのに、どうして……?