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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第82章 夢幻泡影


固唾を呑む、とかそういう事じゃなく、文字通り、固まってしまった。
全神経が目に集中してしまったかのように、それ以外の器官が活動を停止してしまったかのよう。

鍵が開いた、という事はドアの向こう側に誰か、ひとがいるという事を表している。

今出て行ったひとが、戻って来たんだろうか。

身体は1ミリも動かないまま、ゆっくりと開いていくドアと壁の隙間に、視線が釘付けになってしまっていた。

少しずつ視界に入って来たのは……

「……え?」

「あ、起きたんスか? おはよ、みわ」

「涼……太?」

涼太、だ。
その手には買い物袋を下げている。

「こんなトコで何してんスか? 暑いでしょ、部屋戻ろ」

「あ、……う、うん」

なんだ……びっくりした。
涼太が来てくれたんだ。

「涼太、どうして鍵を持ってたの?」

「ん? 朝ご飯のパンでも買おうかと、ちょっとコンビニ行ってたんスよ。緊急じゃなかったんスけど、ポストから拝借」

我が家のポストには、手が届かない所に、セロハンテープで封筒が貼り付けられている。
その中には、合鍵が一本。
もし何か不手際があって鍵がなかった場合に、家に入れるようにしたんだ。

涼太にはポストの番号を伝えてる。
あきは、"困ったらパシリにするからいーよ"なんて言いながら快諾してくれた。
困った時だけ利用するようにと、きちんと約束して。

私の鞄を見るのが悪いと思ったのかな……。

……ん?

「白湯飲む? みわ。水の方がいいっスか?」

「あっ、うん、白湯をいた、頂きます」

お気に入りのマグカップに入れられた白湯を口にする。

不思議だ。
あれだけ不安で荒れていた気持ちが、涼太が来てくれただけで落ち着いてきた。

少し、頭の中を整理しなきゃいけないんだけれど……。

「二日酔いにはなってないっスか?」

「うん、それは大丈夫」

「珍しいっスね、あんなに酔うなんて」

「…………え?」

涼太の発言の意味が分からない。
というか、もう全部分からない。

状況を説明しなきゃ……やはりこれは、順を追って伝えないと。

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