第82章 夢幻泡影
いい大人が漏らしてしまったのかと、焦ってそっと触れてみたけれど……ネバつきのあるそれは、尿ではなく……愛液だ。
下着を履いていなかったからだろうか。
確かに寝起きで濡れていることは時々ある。
……ううん、それにしても濡れすぎだと思う。
これ、涼太と……した時のような感じだ。
どうして?
ハテナマークが脳内で増殖する。
どうして私は服を着ていないんだろう。
ぞぞぞと、背中に虫が這うような不快感。
こんな、呑気にしている場合ではないような気がしてきた。
まだ朝早い。
昨日飲みに行った女の子に連絡するにも、もう少し待った方が良いよね……。
そんな風に時計とにらめっこしていたら、突然スマートフォンがメッセージアプリの新着を告げた。
昨日、涼太から頂いたプレゼントの事についてお喋りした彼女からだ。
“おはよう!
昨日はおつかれー。
だいぶ酔ったんだって?
タケと出て行ったけど
ちゃんと帰れた?
大丈夫って言ってたけど
ちょっと気になっちゃった”
表示された文字列が頭に入って来ない。
タケさんと、出て行った?
私が?
え、だってちゃんとお断りした……よね?
お断りして、涼太と電話したんだもん。
どうしてその後の記憶がないの?
必死で記憶の引き出しを開けても、どれも空っぽで。
……怖い。
タケさんと、どうやって出て行ったんだろう。
だいぶ酔った、って言っても、記憶がなくなるまで飲んだ事なんて一度もない。
昨日だって、途中まで全く酔っ払っていなかったし……。
“大丈夫って言ってたけど”って事は、タケさんと出て行く時、私は受け答えが出来てたっていうことだ。
それなのに何故、記憶が全くないの?
昨夜、一体何があったの?
無性に怖くなってしまって、ティッシュを複数枚箱から勢いよく引き抜き、濡れた陰部を拭ったあとに、冷蔵庫へ向かった。
冷たいはずのお水は、なぜか生ぬるく感じた。