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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第82章 夢幻泡影


「すみません、驚いてしまって……あの、お誘いはありがたいのですが、行けません、すみません」

「……ふーん」

「……」

睨み付けられて、物凄い威圧感だ。
余程気を悪くさせてしまったみたい。
でも、そんなお誘いを受けるつもりなんてなくて……。

苦手だ。
男性のこの雰囲気が、鍵をかけている筈のこころのドアを無遠慮に叩く。
心臓が嫌な騒ぎ方をし始めるんだ。

「んじゃさ、海いかね? 来週末に皆で行くんだけど」

「あ、来週は……もう予定が入っていて」

大会に向けて、練習試合や予選なども入ってくる。
夏休みと言えど、殆ど休みなんてない状態だ。
それに、時間があったら勉強したい事も山ほどある。
申し訳ないのだけれど、遊んでいる時間を作る余裕がなくて。

チッ、と小さな舌打ちが聞こえた。
明らかに苛ついている、怒りの感情を感じる。
私は、申し訳ないと伝えるしか出来ない。
十数人のメンバー達はそれぞれお話をしていて、こちらに関心のあるひとはいないみたいだ。

教授のお姿もまだないし、今日は帰らせて貰おうか……そんな風に考え始めた直後。

「ごめんな、無理に誘って。またタイミング合ったら遊びに行こう」

先ほどまでの不機嫌な表情はどこへやら、タケさんはにこりと微笑みを宿して、柔らかな口調でそう告げた。

「はい、また機会があれば皆さんと遊びに行きたいです……」

でも、一度騒ぎ出した心臓は、なかなか鎮まってくれなくて。
頼んだグラスワインを早々に開けて、トイレへと立った。

個室に入って、大きく深呼吸をした。
なんであんな風に余裕がなくなってしまうんだろう。
これから社会に出ていくというのに、こんなんじゃだめだ。
ちゃんと自分を律していかなきゃいけないと、分かっているのに。

ポーチに入れてある、涼太から貰ったネックレスを握って一呼吸。
右耳のピアスに触れて、もう一度一呼吸。

大丈夫。
簡単なルーティンだけれど、いつもの感覚を取り戻せれば、落ち着けるようになってきた。

すると、待ち構えていたかのように、私の手の中にあるスマートフォンが振動を始めた。



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