第29章 事件
「室内の指紋を採取させていただきます。どうやら犯人は、窓を割って侵入したようですね。犯人の心当たりはありますか? 普段からストーカー被害があったとか」
「……ないです。心当たりなんてないです。下着を外に干すと……なくなってたり……することが最近2回ほどありました」
あれは、この犯人が持って行っていたのか。
「分かりました。これから犯人の特定のため、調査をいたします。汚れている下着については鑑定のため、お預かりしてもよろしいですか?」
「……汚れている下着……?」
ゾッとする単語。
洗濯物は残っていない。
そんなもの、あるわけない。
「……チェストの中に入っていた下着の中で数枚……犯人の精液と思われるものが付着していました」
「……!」
「な、なんスかそれ……!」
「恐らく、犯人が……」
何かを警察の人が言っていたけれど、なにも耳に入ってこない。
黄瀬くんが代わりに何かを話してくれている。
頭が、まっしろだ。
「…………また何かわかりましたら……こちらからもご連絡します。
…………」
なにも、きこえない。
黄瀬くんと話して、警察の人達は帰って行った。
静まり返る室内。
「みわっち、ケイタイに大家さんの連絡先入ってるっスか?」
「……はいって、る……」
「いい? 貸して」
言われるまま、アドレス帳を開いて渡した。
黄瀬くんが、電話をかけてくれている。
音が全然入ってこない。
「ごめんね……ありがとう……」
通話を終えた黄瀬くんに、やっと、それだけ言うことができた。
「事件の事とか、窓の事とか話しておいたっスから」
なんで。どうして。
私の服を、下着を、枕カバーを、ペットボトルを、ボディスポンジを、歯ブラシを、髪の毛を、汚物を、どうしようというの。
それに……下着に精液が……って……。
見知らぬ男がそれを愉しんでいる姿が頭に浮かび、酸っぱいものが込み上げてくる。
「ゔっ……!」
トイレに駆け込んで、激しく嘔吐した。
「みわっち!」
「うっ、ゴホッ、うぇ……」
胃の中には殆ど何も入っていない。
それなのに吐き気が止まらない。
ひたすら胃液を吐いた。