第29章 事件
しばらくして警察の現場検証が始まった。
黄瀬くんがついていてくれている。
怖くて、ずっと手を握っていた。
「空き巣ですかね。犯人と出くわすなんて、怪我がなくて良かったですよ。金品目的ですかねえ」
何がなくなっているか等、被害状況の確認のため、家中を調べることになった。
地獄の始まりだった。
幸いにも、家に金目のものは置いていない。
衣類や下着などは数もないため、無くなればすぐに分かる。
洋服も、下着も数枚無くなっていた。
また、枕カバーも盗られていた。
ブランド物なんてひとつも持っていないのに。
その他の部屋も確認して欲しいとのことで、台所をチラリと見たけど、特に問題はなさそう……。
念のため、すべての棚や冷蔵庫を開ける。
「あ……」
ない。
「何か無くなっていましたか?」
「冷蔵庫に入れていた……飲みかけの……ペットボトルが、ないです……」
声が震える。
「間違いありませんか?」
「はい……今日帰って来て飲んで、明日のゴミで捨てようと今朝思ってたので間違いありません……」
……何、なんでそんな物。
「みわっち……」
怖い。気持ち悪い。
もう確認したく、ない。
「浴室もお願いします」
「……はい……」
お風呂場に足を踏み入れて、絶望でそのまま座り込んでしまいそうになる。
「……ないです……身体を洗う時に使う泡立てスポンジと……歯ブラシ、が……」
どうして。どうして。
身体中が震える。黄瀬くんの手をギュッと掴んでいても、震えが止まらない。
「……あと……排水口、の、髪の毛、もキレイに、なってる……」
今日は時間がなかったので、帰ったら掃除しようと思っていた。
ない。ない。
「……分かりました。最後にトイレですね」
なんなの。
やだ。どうして。
トイレなんて、物は置いてないし、きっと大丈夫……
……!!
「どうですか?」
「…………ない、です。ごみ、がない。どうして」
「……汚物入れの中のゴミということですね?」
「…………はい……」
足がふらついて、転びそうになったところを黄瀬くんに支えられた。
「……みわっち、ちょっと休んだ方が」
……やだ……もうやだ……気持ち悪い……なんで、誰がこんな……。