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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第82章 夢幻泡影


ぽん、と頭の中に涼太が現れて、にこにこと笑っている。
そうだ。今日、閑田さんについて来た理由が薄れてしまっていた。

「あっ、あの、お約束どおりですね、その件ですが」

「はいはい、わかってるよ。付き合ってる事だろ、誰にも言いやしないって」

また何か条件を付けられたらどうしよう……なんて思ったけれど、閑田さんはあっさりとそう言った。

「……ありがとう、ございます」

肺のもっと奥の方から、深い溜息が漏れた。
お水を口に運ぶと、口の中がかなり渇いていた事に気がつく。

「なんでそんなに警戒すんのかね? まあ確かに人気者ではあるけど、別に芸能人な訳でも、まだプロになったわけでもないのに」

訝しげな表情を浮かべた閑田さんは、蓮根をつまみながらそう一言。

「……彼には、まだまだ先の未来があるので」

「みわにもあんだろ」

そう、なのかもしれないけれど、そうじゃなくて。
……うまく答えられない、質問だ。

「私は……私のはそんな大層なものじゃなくて」

これだけ言い淀んで、全く説得力がない自覚はある。
どれだけこの質問をされただろうか。
相変わらず、うまく説明が出来ないんだ。
涼太と私の生命は平等ではない。
彼とは背負っているものが違いすぎるし、彼が居なくなる事によって起こり得る影響の数々は、私の比ではない。
あんなに、きらきらした、太陽みたいな……。

「……ふーん、まあいいや。今度はもっとデートらしい店に付き合って貰えるよう、俺も精進しますよ」

「……すみ、ません……」

チェーン店の定食屋さんを選んだのがまずかっただろうか。
でも見渡した限り、この近辺にバランス良く食べられるようなお店が見当たらなくて。

デートのつもりなんて、全く無かったんだけれど……。

「俺は、みわは十分魅力的だと思うけどね。女としても、人間としても」

「いえ、そんな……お気遣い頂いて、すみません」

……閑田さんは、相変わらずどこまでが冗談なのかが分かりづらい。


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