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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第82章 夢幻泡影


翌日の朝練で、その違和感の正体に気がついた。

「閑田さん……少し、いいですか」

水分補給のための小休憩の時間に、私は閑田さんを呼び出した。コーチには予め伝えてある。
私達は、誰もいない会議室……出来る限り人がいない場所へ。

「みわからふたりきりになりたい、なんてお誘いを貰うとは思わなかったな。色っぽい話だと嬉しいんだけど」

正直、ふたりきりになるのは、あんまり気が進まないけれど……ううん、今はそんな事を言っている場合じゃなくて。

「足……右足を、見せてください」

私の言葉に、彼の顔に張り付いていた笑顔が凍りついた。

「……なんで?」

「足、痛むんですか」

「だから、なんで」

ハッキリ否定はしなくても、いつもより強い語調のこの問いはつまり、肯定だ。

「いつもよりステップの時にもたつくと思って……右に傾く時に庇っていますよね、足首を」

ほんの些細な動きだけれど、いつもと違うのがちゃんと分かる。
どこか不調がある時、無意識の内に動きや態度、表情に出てしまうものだ。

「……」

「痛めたんですか、見せて下さい」

「いや、痛いわけじゃない。なんとなく違和感があるってだけだ、問題ない」

「閑田さん、待ってください」

会議室から出て行こうとするその進路を塞ぐように立ちはだかり、両足のふくらはぎに触れた。
朝のウォーミングアップとシュート練習後とは思えない筋肉の張り。
私は知っている。こうなってしまう原因を。

「……閑田さん、オーバーワークです。組まれたメニューの他に、時間外で走り込みや練習をしているんじゃないですか」

見上げた際に見えたのは、ほんの少し動いた眉間と口元。

「大会が近いんだから、当然だ。みわなら分かるだろ」

「……はい、分かります」

あれから何年経っても、忘れない。
忘れる事なんて出来ない。

「強すぎる責任感でチームを背負って、オーバーワークで故障して……試合に出場し続ける事が出来なくて、どんな思いをするかを、私はよく知っています」


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