第82章 夢幻泡影
「で、これが」
「あ、お土産……です」
「……」
翌週、大阪の牛丼屋にて。
閑田選手……閑田さんにネズミーランドのお土産を渡したのだけれど、なんだか不思議そうな顔をされてしまった。
「お好きじゃなかった、ですかねすみません」
可愛いキャラクター達が勢揃いしたパッケージの、チョコクランチ。
甘いのが嫌いとは聞いていなかったから大丈夫かなと思ったんだけど、安易だっただろうか。
「お菓子」
「物よりも、食べ物の方が良いかなって……あの、もしご迷惑でしたら持ち帰ります」
「いや……サンキュ」
閑田さんはそれだけ言って、お菓子をそっと仕舞った。
以前、閑田さんからお土産といってキーホルダーを頂いてしまったから、お返しにと買ってきた。
贈り物のセンスが壊滅的なのが、こんなところまで影響するなんて……今度はちゃんとよく考えてお買い物しよう。
「誰と行ったん?」
「……あ、と、友達とです」
時間も忘れて抱き合っていた映像が再生されてしまい、盛大にどもってしまった。
「ふーん、友達、ねえ」
「はい、友達です」
友達が殆どいない事は知られていないはずだから、そんなに不自然じゃないはずなんだけれど……。
「んじゃ、俺行くわ。お先に」
「あっ、お疲れ様でした!」
ここ数日、閑田さんの様子がおかしい。
いつもはなんというか、練習後とか食事の後とかは、皆と談笑する時間をもったりしていたのに、今日もささっと帰ってしまった。
……なんだか、嫌な感じがする。
いつもよりも注意しておこう。
スケジュールを確認しようとして開いた手帳に挟まれていたポストカードが目に入る。
ネズミーランド内にあるポストに投函すると、特別な風景印を押して貰えるのだと涼太が教えてくれて、ふたりで自宅宛にポストカードを送った。
涼太からの応援メッセージが書いてある。
自分の力を信じて、いつも通りに って。
これがあれば、パワーが何倍にもなる気がするよ。