第82章 夢幻泡影
涼太だけではなく、笠松先輩の弟さん……笠松くんもそうだった。
皆、チームを背負い、責任を背負い、チームを勝たせるために自らが自らを追い詰めていってしまう。
「閑田さん、今は休んで下さい。足を使わずともトレーニングは出来ます。まずは使いすぎた足を休ませる事からです」
「みわ、こんな時期に何言ってるのか、自分で分かってんのかよ」
「分かっています。分かっているから、言っているんです」
涼太が高校一年の時のウインターカップ……忘れない。
あの悔しさと悲しさ、やるせなさは……あの後悔は生涯忘れないと思う。
「はいそうですかって言えるわけないだろ。今はやるだけやって、シーズンオフにしっかり休養を取るようにするから問題ない」
「……それでは、駄目なんです」
感情的になってはダメだ。
きちんとお話すれば分かって貰えるはず。
「閑田さんは既に今、プレーに影響が出ている状態です。インカレが始まる頃には、恐らく1試合走り切る事は不可能になっているはずです」
「なんでそんな事が分かるんだよ」
「かつて……私がいたチームのエースが、同じ状態で……プレーをし続けたからです」
私に赤司さんのように未来を視る力はない。
でも、閑田さんの足の状態は分かるんだ。
これだけは譲れない。
「そいつと俺が同じとは分からないだろ。心配させて悪かったな、もう心配いらないから」
閑田さんも、譲らなかった。
私がいくら過去の事をお話しても、俺は俺だと、今の状態を認めてはくれない。
そんなに簡単に伝わるような甘いものとは思っていなかったけれど、こんなにも食い下がられるとも思っていなくて……。
なあなあにしていい問題じゃない。
でも、本人が理解し、納得しない限り練習量の過負荷を除く事は出来ない。
家に帰ってしまえば、監視する事も出来ないんだから。
なんて言えば分かって貰えるんだろう。
「みわの気持ちは分かったから。ありがとな。もう練習に戻るわ」
もう言うことは無いと言わんばかりに出口へと向かう閑田さんの腕を、強く引いた。
「待ってください!」