第29章 事件
「送ってくれてありがとう。また明日ね!」
「戸締まりしっかりして。外を確認しないでドア開けちゃダメっスよ」
「なあに、子どもみたい」
「ほんとに、どんなヤツがいるかわかんねっスから、気をつけて」
突然変なの、黄瀬くん。
心配してくれるのは嬉しいけど……。
「うん、分かった。気をつける。ありがとう」
いつもは見えなくなるまで手を振ってるのに、今日はすぐ家に入るように言われてしまった。
ドアを開けると、空気が流れ込んできた。
あれ、窓が開いてる……?
私、閉め忘れて行っちゃったんだっけ。
玄関に足を踏み入れた時、部屋の中でガタガタと音がしているのに気が付いた。
人の気配がある。
……え……うちに入れるひとなんて、いた?
部屋の奥を恐る恐る覗くと、人影が見えた。
逆光になっていて、顔は見えない。
「……だれ、か、いるの……?」
人影は驚いてこちらを振り向くと、窓から出て行った。
なにこれ、もしかして……空き巣?
恐怖のあまり、その場に尻餅をついた。
スマートフォンを取り出して、震える指で黄瀬くんに電話をかけようとする。
何回か押すボタンを間違えてしまう。
お願い、早く。早く出て、黄瀬くん。
「はいはい、どしたのみわっち?」
「……きせく、た、たすけ」
「……みわっち? どうしたの? いま家? 家で何かあったの?! オレすぐに戻るから、外出れる!?」
「いま、いえにいる、た、たて、たてない、こし、ぬけちゃ」
「今、向かってるから! 電話切らないでこのままにして待ってて!」
「な、なんで、わたしちゃんとカギ、しめて」
「みわっち、もう着くから!」
ドアが開く音がする。
驚いて心臓が飛び出そうになった。
「ハァ、ハァ……みわっち!」
「き、黄瀬く……」
「どうしたの、電気もつけないで」
黄瀬くんだ。戻ってきてくれた。
電気をつけてくれる。
「っ、なんだよ、これ」
私にも見えていなかった部屋の惨状が露わになった。
窓が割れていた。
部屋中のありとあらゆる引き出しが開けられており、チェストのあちこちからは衣類が飛び出している。
下着が入っている棚は、引き出しが床に転がっていた。
「……みわっち、警察呼ぶっスよ」