第82章 夢幻泡影
『みわ』
……優しい、声がする。
『みわ、自分を大切にするんだよ』
口調が、涼太のものではない。
時々、夢で聞き覚えがあると感じる喋り方。
声の質までは、はっきりと認識出来ないけれど……。
『疲れたと思ったら、まず何よりもお休みすること。それでもおかしいなと思ったら、すぐにお医者さんに診てもらうんだよ』
うん分かった、気をつけるね、そうお返事をしようとしたのに、それが出来たのか定かでないまま、画面は真っ暗になってしまった。
一瞬の漆黒ののち、視界に現れたのは……見慣れている筈なのに、いつも輝きの違う琥珀。
「おはよ」
「……おはよう、涼太」
夢だったんだ。
最近また、予定を詰めすぎてしまっていたから、お父さんが夢に出てきてくれたのかな……なんてね。
太腿の筋肉が少し疲れている。
そっか、昨日すごい体勢で、したから……。
昨日の痴態を思い出し、たまらなく恥ずかしくなってきた。
「なぁに思い出してんスか?」
「っ、涼太は、超能力者なの……!?」
「いやそのカオ見れば分かるって」
現状を言い当てられて動揺してしまった。
だってそれはつまり、恥ずかしい事を考えていたというのが丸わかりだったということだ。
……自重で涼太が一番奥までジリジリと入ってくる感覚……今でも下半身がジンとする。
中を擦られると、悶えるほど気持ちが良くて……だめだ、妄想が止まらなくなってきてしまった。
「みわ、寝起きのおっぱいっていつもより柔らかいってホント?」
「……えっ、聞いたこと、なかったけど」
寝起きの胸?
そう言われて触ってみたけれど、いつもと違う感じはしない。
「……あんまりそんな感じはしないかな」
「どれどれ」
「あ」
バスローブの胸元から侵入してきた大きな手が、ゆっくりとまさぐった後に揉みしだく。
「こら、っ涼太」
「ん〜、やらかいスかねえ? 先っぽは固くなってきたんスけど」
ちょっとからかうような表情……もしかして。
「もしかして今の、嘘だった?」
「そんな素直すぎると、悪いオトコに騙されちゃうっスよ」
憎らしいほどに美しい瞳が、ゆるやかな弧を描いた。