第81章 夢幻泡影
「なんだよ、そ……そんなに必死になるこたないだろ」
「待ってください……お願いします。今はバスケはしちゃだめです。絶対にだめ。休んで。お願いします」
感情的になっちゃだめだよ。
伝えたいこともちゃんと伝わらなくなっちゃう。
そう思っているのに、分かっているのに。
脳裏に焼き付いているあの背中が、あの涙が。
今まさに心臓に流れ込んでくるかのようなあの悔しさが、こころを乱す。
どうしたら伝わってくれるの。
もう、あんな想いをする選手を見たくない。
……選手のためと言いながら、自分自身が嫌な思いをしたくないから言っているんだろうか。
私は、どこまでも自己中心的で嫌な奴だ。
でも、それでも、これだけは引き下がれない。
「閑田さん、お願いします。本当に、もう、あんな……」
琥珀色の瞳から絶え間無く流れ落ちる涙を思い出してしまい、胸が圧迫されているみたいに苦しくて、痛い。
「みわ」
「お願いします、休んで。無理だけはしちゃだめです。お願い、お願い」
ヒステリックに騒ぎ立てても伝わらないと、それはちゃんと分かっているのに、温かい水が頬をどんどん伝っていくのを感じる。
止めようと思っているのに、止められない。止まらない。
「お願いします、閑田さん、おねがいします……」
もう、取り繕う事も出来ずに、嗚咽混じりの懇願。
駄々をこねる子どものようだ。
閑田さんは、頭をガシガシと乱してから、大きなため息をついた。
「……わーったよ、休むよ」
「……え……?」
「分かったから泣くなってば」
「わっ」
視界を遮ったのは、スポーツタオル。
顔からずり落ちたそれを慌てて受け取ってから、現状把握に努める。
「休んで……くれるんですか」
「みわがあまりに必死だからさ。でも休んでる間に、再開出来そうだと思ったらすぐに練習に入るから」
先ほどまでの頑固な口調が和らいでいる。
受け入れて、くれたんだ……。
「ありがとう、ございます……」
まだ状況は変わっていないのに、ホッとしたらまた涙が溢れて来てしまった。