第82章 夢幻泡影
部屋の隅にある、3人掛けのソファに並んで座り、温かいお茶に口をつけた。
「おいしい」
「うん、うまいっスね」
緑茶でも烏龍茶でも紅茶でもない、不思議な味わい。ティーバッグで淹れたとは思えない、味が調ったお茶だ。
色々なものがブレンドされているから、当然だとは思うんだけれど、ついつい味の源を探ってしまう。
そして、温かい液体に、身体の芯が温まっていくのを感じる。
冷え性だから、夏でも温かい飲み物は手放せない。
「今は暑いけど、きっとあっという間にインカレの時期になるんスよねえ」
「そうだよね、年々時が経つのが早くって」
インカレ……インターカレッジは、毎年年末ごろに開催される。
今年は涼太の学校の応援席じゃなくて……K大関係者としての参加だ。
自分のやっている事に後悔はない。
……後悔はない、はずなのに時々こうして焦れるような気持ちになるのは何故だろう。
やっぱりまだ、こころのどこかで納得出来ていないんだろうか。
情けない。
折角貰ったチャンスを最大限生かそうと決めたのは自分だ。
これで後悔なんてしたら、涼太にも、チームの皆にも失礼じゃないか。
「みわ」
「……あっ、うん?」
「眉間にシワ」
「そ、そう? かな」
眉間に寄っているらしい皺を伸ばさなければと、おでこの皮膚をあれやこれやと動かしてみたんだけれど、涼太には笑われてしまった。
「年末年始は、一緒に過ごそう」
涼太がぽつりと発した言葉は、素のままの彼といった感じの優しく穏やかな音だった。
「……うん、ありがとう」
多忙を極める涼太の貴重な時間を横取りしちゃいけないとは自覚しつつも、尻尾を振った犬のように即答してしまった自分が情けない。
「みわとあれしよーかな、これしよーかなって考えんのが好きなんスわ」
彼の頭の中に、彼の未来に当たり前にいられる事が本当に嬉しくって。