第82章 夢幻泡影
「なんか飲もっか」
「うん」
涼太は、ベッドサイドに置いてあったバスローブをさっと羽織り、ベッドを抜ける。
気持ちも身体も落ち着いてくると、ようやく室内の様子を眺める余裕が出て来た。
少し怠さの残る腹部を起こし、辺りを見渡すとパークのキャラクター達がそこかしこで可愛らしい姿を見せてくれている。
これ、キャラが大好きなひとにはたまらない空間だろう。
最近知ったばかりの私でさえ、こんなにもウキウキする。
涼太は、わざわざ据え置きのポットを使って温かい飲み物を入れてくれようとしているみたい。
よく見るとポットにも、カップにもきちんと装飾が施されている。
慌てて私もバスローブを掴んで、ベッドを抜けた。
「ティーバッグしかなかったっスわ」
「わ、こんなにたくさん」
木製の四角い箱の中には、色とりどりの紙袋たち。
どうやらすべてティーバッグみたいだ。
手に取ると、それぞれ違うキャラクターが印刷されていて、色ごとにフレーバーも異なるらしい。
「みわ、何にする?」
「マテ茶をベースに緑茶とレモングラスをブレンドした爽やかな味わい……これにしようかな」
薄い黄色と緑色の紙袋には、ビーバーのキャラクターが描かれている。
「可愛い。袋捨てちゃうの、もったいないね」
「ん、オレあんまそういうの気になんないっスわ」
「ふふ、うん、知ってるよ」
涼太は『物』にも『ひと』にもあまり執着しない。
彼には確固たるものがこころの中にあって、それが揺らぐ事はないからかな。
強くて優しくて、時々とっても脆くて。
ティーバッグを見ているふりをしながら、こっそり涼太の方を盗み見ようとして……バッチリ目が合ってしまった。
「あっ……の、涼太、は、何に、するの」
明らかに不審な目の逸らし方をしてしまった。
もう少し自然に出来ないの、ばか……。
「ん〜、オレは……」
ティーバッグの箱に近づいていった手は、小さな袋を掴まずに、その横にあった私の腕を掴んだ。
「あの、今見てたのは変な意味じゃなくて」