第82章 夢幻泡影
涼太は手早く避妊具の処理を進めると、ベッドへ戻り私の下半身に手を伸ばした。
「あっの、大丈夫、だから」
拭いてもらうなんてみっともなさすぎるから、なんとか自分で動こうと思うのに、脱力してしまった身体はうまく動かない。
「だって、動けないじゃないスか」
「っん」
そう言って微笑みながら重ねられた唇に意識が集中しているうちに、さっと拭かれてしまった……。
ゆるりと抱きしめられて、身を寄せ合うようにしてベッドへ横たわる。
触れ合う肌が、あったかい。
涼太、少し汗をかいてしまったみたいだけれど、冷えないかな。
「みわは、ちゃんと自分の面倒も見てあげるんスよ」
まるで猫か犬を撫でるかのように、大きな手が頭を撫でた。
「私の?」
「そ。ちゃんとメシ食って、寝て、遊んで、好きなコトして」
ご飯を食べて、寝て……。
「今でもちゃんと、してるよ?」
なんだか以前にも注意されたような気がする。
涼太は心配性だから……。
「今の状態でちゃんとしてるって言うなら、これからはもっとちゃんとして」
すんなり、うんと言ってくれるかと思ったら、まさかの。
……確かに、手抜きをしていないと言えば嘘になる……かな。
でも、お腹が空いて倒れる前にはちゃんと何かを口にするようにしているし、人様に迷惑をかけてしまってからは、出来る限りでちゃんと睡眠をとるようにしている。
「……う、っと、善処します」
「ね、約束して欲しいんスけど」
私の髪の小さな束を指でくるくる巻いて、ほどいて。
時々やる、涼太の癖みたいなものだ。
「……いきなり、どうしたの?」
「いきなりじゃないっスよ、ずっと言ってるでしょ、みわはみわを大事にしてって。今は離れている時間が多いっスけど、オレがいなくてもちゃんと自分のコトを考えて欲しいって」
これからまた、大会が続けば会えない期間が長くなる。
きっとそれを思っての言葉だろう。
……試合会場では顔を合わせる事もあるけれど、それはライバル校として、だ。
「……うん、分かった。ちゃんと、する」
涼太に余計な心配をかけないのも、私の大切な仕事だ。