第82章 夢幻泡影
「みわ、大丈夫っスか?」
「……し、し、にそう……」
「そうだろうなとは思ってるんスけど」
涼太は肩を揺らして笑ってる。
今の状態を表す適切な単語がすぐには浮かばなくて、とにかく伝えようと思ったのが失敗だった。
相変わらず力は入らなくて、ほぼ全体重を涼太に預けてしまっている。
持ち上げられた状態のままじゃなくて良かった……と、安堵なのか、説明の出来ない感情を抱きながら。
くしゃ、と髪を乱しながら大きな手が後頭部に触れた。
「……死んだら、みわとどこで待ち合わせしようかって最近ふと考えたりするんスよねえ」
「……え? 待ち、合わせ?」
想像だにしていないその発言に、素っ頓狂な声で応えてしまった。
待ち合わせ?
死んだら?
反芻しても、理解出来なくて。
かつて、夜空の下で交わした約束を思い出した頃には、会話は一歩先に進んでいた。
「いや、一緒に死ねたとしても、向こうに着いた時はバラバラになっちゃうかもしんないじゃないスか」
「……あの世で、ってことだよね?」
「そそ」
涼太って、本当に時々、不思議な事を言うなって、あの時も驚いたんだった。
「……あの世って、現実世界と同じ感じなのかな……」
どんな世界なんだろう?
賽の河原? 三途の川?
小さい頃、本を読んで貰った気がするけれど、どうにもピンとはこなくて。
「あー、みわはあのお花畑みたいなのを想像してる?」
「あ……うん……なんとなく、そんな感じかなって思ってた」
「オレはなんとなく、あんまり今と変わんないような気がするんスよね。そんで自分が死んだって気がつかないような」
「気が……つかない……」
正解なんてない、ただの空想話だっていうのは
分かっているのに、なんとなくゾッとした。
「って、今そんな話するなってまた怒られそうっスけど」
「あっ、待ってまだ動いちゃだめっ」
何かを考えようとしたのに、思考はすぐに霧散してしまった。