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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第82章 夢幻泡影


数名が乗り込んだエレベーターは、音も無く上昇していく。
エレベーターホールで談笑していた人々は、狭い個室に入ると不思議と皆沈黙していた。

嫌な記憶がカケラも思い出されないほどに洗練された空間に、腰を抱く逞しい腕。
心臓が、早鐘を打つ。

頭上の小さなデジタル画面で、ひとつずつ加算されていく階数表示が、まるで自分のリミッターのカウントのように思えてくる。

涼太が好きで、好きで、仕方ない。

こんなにもひとを好きになったことがなくて、何年たっても想いは色褪せることがなくって。

こんなに楽しい時間なのに、自分の欲を暴走させてしまってどうするんだろう。

いつのまにか人がいなくなったエレベーターは、最上階……11階で動きを止めた。

エレベーターを降りた先の壁は薄いベージュのアラベスク模様になっていて、柄と柄の間にネズミーランドのキャラクター達が描かれている。

涼太が足を止めた先のドアには、ヤマアラシの【ぽーきゅ】の大きなお顔が彫られていた。

「……可愛い! ぽーきゅのお部屋なんだ」

「たまたまっスよ、どのキャラになるかは選べないって書いてあったし」

「そうなんだ、なんだか嬉しい。このニコニコ笑顔が可愛いね」

「そう言ってるみわのがカワイイっスけどね」

「うっ」

りょ、涼太はどうしてこういう事をサラッと言うんだろう……うまい返しがあるんだろうか。
もしあったとしても、自分に出来るとは到底思えないんだけれど。

自分の中で泥のように渦巻く欲望と、荒れた気持ちを宥めてくれるようなファンシーな世界観で、完全に気が動転してる。

涼太が部屋のドアを開けると、広がった世界は予想に反して、『ファンシー』というよりも、『クラシカル』という表現が正しかった。

可愛いキャラクターに囲まれて落ち着かなかったらどうしよう……なんて一瞬思ったけれど、そんな心配は無用だったみたいだ。

シンと静まり返っている室内に、カーペットを踏みしめる音だけが響く。

そのまま、音も無く抱き合った。


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