第82章 夢幻泡影
一瞬窓の外に見えた夜景も、今はなんにも見えない。
眼前に広がる色合い豊かなTシャツの向こうから、速くなった鼓動を感じる。
涼太もドキドキ、するのかな。
背中に回した腕に、つい力を込めてしまう。
離したくない。
離れたくない。
そんな感情に、胸が埋め尽くされていく。
愛しいと思う気持ちに支配されて、湧き上がる衝動と情動が抑えられない。
そのまま、どちらからともなく唇を重ねた。
最初は、感触を楽しむかのように触れるだけ……いつもの涼太のキスだ。
今彼がここにいるのだと、彼と触れ合っているのだと思い知らされる圧倒的な存在感に、優しい口づけ。
頬に触れる手が、あったかくて。
唇が離れて、こつんとおでこがぶつかって、上目遣いの瞳と目が合ったと思ったら……また、キス。
今度は……深い深い……
「……ん……っ」
口内を愛撫されて、変な声が漏れてしまう。
腰にも力が入らない。
涼太が支えてくれているから辛うじて立っていられるけど……。
そんな私の状況を知ってか知らずか、涼太は、壁際にあったテーブルのような台へ私を腰掛けさせた。
「あ……っ」
大きな手が、休む事なく身体中を這い回る。
服はスルリと肌を滑っていき、あれよあれよと言う間に下着姿にされてしまった。
適度に冷えた部屋のせいで忘れてしまっていたけれど、こんな暑い夏の日……まだお風呂にも入っていないのに。
「あぁ、ん」
「もーこんなに硬くして」
「あん……っ」
胸の先端を巧みに転がされて強く吸われたら、躊躇いが一気に吹き飛ばされてしまった。
身体は勝手に先へ先へと進もうとする。
じくじく疼く下半身には触れて貰えなくて、あちこち舐められたり、時には噛まれたり……気持ちが良すぎて、もどかしくて、発狂してしまいそうだ。
力が抜けていく手で、涼太の身体に触れる。
ぴくんと反応を見せるのが、嬉しすぎて。
言葉はなく、視線を交わしたまま触り合って、お互いの存在を再認識する。