第82章 夢幻泡影
上下左右、装飾が施されキラキラと輝くキャラクター達に囲まれたエントランスを抜けると、だだっ広いホールのような空間が現れた。
この広さなら、宿泊客が何組かいたとしても窮屈さは全く感じない。
まー、今のオレからしてみたら、受付のオネーサンすら邪魔に思えてしまうんだけども。
いつもならみわにはイスにでも座って待ってて貰うトコだけど、今日は腰を抱いた腕を離さなかった。
無駄な動きなくさっさとチェックインを済ませ、流れるようにエレベーターホールへ足を運ぶ。
エレベーターホールには先客が2組、子ども連れの3人家族と、両親くらいの年齢の男女。
色んな声が音としては耳に入ってくるんだけど、脳みそまで届く頃には言葉の形を保っていない。
隣にいる彼女に意識が集中しすぎているせいだろうか。
どうやらまだ、みわの願いを叶えてやれるまでには時間がかかりそうだ。
「すごい……素敵なホテルだね」
見上げて嬉しそうにそう言ったみわの瞳は、装飾の輝きが映っているのかと思わせるほどにキラキラしてる。
「あっ……ごめんね急がせて、お土産とかお買い物して行ってもよかったんだけど、あの」
そして何かに気がついたかのように慌て出すみわ。
くるくると変わる表情に、思わず笑ってしまう。
「オレと早くふたりきりになりたいんスよね?」
「う」
覗き込むと、また頬を染めて……でも、目は合ったまま。
照れて逸らしてしまうコトも少なくないのに。
なんか嬉しくてついつい、からかってしまう。
「そうなんスよね?」
「……うん、なりたい……涼太とまだまだゆっくり……」
「……反則だって、それ」
はー、やられた。可愛い。無理。
普段甘えないみわの貴重な貴重な貴重すぎるおねだり。
みわのことだ、オレのように不純なものじゃないかもしんない。
でも、そんなのは関係なくて。
「残さずぜーんぶ食べてあげるから、安心して」
ぺろりと耳たぶに舌を這わせると、みわの頬はリンゴのように美味しそうに色づいた。