第82章 夢幻泡影
「あれ? オレだけっスか、そういうの」
「う……えっ……と……」
正直に言うと、そういうことは多々ある。
涼太の熱は、彼に触れていない時でも簡単に呼び起こされるから。
彼に抱かれている時の幸福感は、忘れられるようなものじゃなくて。
「私も……思い出すよ。涼太と、一緒に居た場所とか……」
言いながらも、勝手に頭の中でその時の映像を上映してしまって、涼太の顔が見れない。
頬だけじゃなくて、身体まで熱くなってきた。
「とか?」
「……とか、色々」
逃げるように視線を逸らして、グラスに残ったサングリアを流し込む。
さっきまではもう少し糖度の高さを感じていたのに、何故かあまり甘みを感じない。
ああ、頭がポーッとする。
飲み過ぎたのかな、でもそんなに飲んでない気がするんだけど。
この席に座ってから口にしたものはちゃんと、思い出せる。
酔ってる訳じゃない筈なのに、身体の内側から揺らされるような衝動に逆らえない。
「まあ続きはベッドで聞くっスわ」
「うん……」
一瞬、時が止まったような気がした。
涼太も驚いた顔してこっちを見てる。
私いま、よく考えないでお返事したよね。うん、した。
「あっ、あの」
「行こ」
促されて席を立つと、左腰に手を回されて、強く引き寄せられた。
洋服を着ているのに、触れているところが熱い。
密着して歩きづらい筈なのに、全然気にならない。
それよりも、こんなにくっついて歩いていたら、誰が見ているのか分からないのに……と思うのに、拒否出来ない。
ドキドキする。
心臓が鷲掴みされたみたいに脈打って、胸の辺りが落ち着かない。
それから、どうやってお店を出たのか覚えてない。
もう閉園時間も間近に迫っているのか、薄暗い中、人々は一方向へ向かって流れている。
皆、浮かべる表情は満足に満ちていて、ここは夢の国なんだと再認識させられる。
また、素敵な想い出が増えた。
いつも貰っているばかりで、私は涼太に何かをお返し出来ているのかな。
好き。
大好き。