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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第82章 夢幻泡影


「みわは払うって言うけど、別に全部オレが払ってるワケじゃないじゃねースか」

「ううん、殆ど涼太に払って貰っちゃってるよ……」

「いいんだって」

「よ、良くないもん!」

ああ、押し問答がしたいんじゃないのに。
でもでも、はいそうですねと譲れなくて。
柔軟に考える思考回路も、ちょっと、いやだいぶ緩んでしまってるみたいだ。

「美味いっスね、これ」

「う、うん」

確かに、果物のおかげでフルーティーな甘みのついたワインは、何杯でも飲めてしまいそうなほどに、するすると喉を通っていく。
心なしか、火照った頬も鎮静化してきた。

涼太は、こういう会話っていうか場の切り替えみたいなものが上手くて……いつも彼のペース。

見習わなくちゃいけないんだけど、そう簡単に真似出来るものでもない。これはきっと彼の才能のひとつなんだろう。

「嬉しいんスよ、オレ」

「……え?」

涼太は、まるでワイングラスに語りかけるかのように、前を向いたままそう呟いた。

「オレは、みわと一緒に居ると楽しくて楽しくて、めちゃくちゃ幸せなんスわ」

「わ、私も!」

「そんなヒトと一緒に居られるってことがもう、すげえ嬉しいんスよ」

「私も!」

慌てて、ちょっと被せ気味に言ってしまった。
だってそれは、私のセリフだ。
涼太にはこんなにも幸せを貰ってる。

「みわも……?」

「うん」

薄暗い照明の中、覗き込んで来た涼太の瞳は、微笑みながら微かに潤んでいるようにも見える。

「ホントに?」

「本当、だよ……」

目が合ったまま……ゆっくりと、唇が重なる。
お店の中なのにとか、誰かに見られたらとか、そんな理性はどこかに流れ出てしまっていた。

静かな、静かなキス。
あったかいくちびるが、全てを溶かしていってしまう。

そして、ほんのり香るアルコール。



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