第82章 夢幻泡影
「お待たせ致しました」
「ありがとうございます」
赤と白、サングリアが入ったそれぞれのワイングラスが置かれると、ふと涼太と目が合った。
「あの……涼太、いつもね、お金を払って貰っちゃって申し訳なくて……あの、涼太の立場とか、そういうのもあるとは思うんだけれど、私もお支払いをさせて貰えないかな」
ひと息でそう告げた。
前からお話ししてはいるんだけど、いつも全然お金を受け取って貰えなくて……。
「いいんスよ、オレに任せておけば」
「でも、涼太が稼いだ大切なお金だもの」
そう、こうして私との食事や贈り物に使ってくれているのは、大切な涼太のお金だ。
いつも頼ってばかりで、本当に申し訳ないとしか言えない。
涼太は、きっと私が貧乏だと分かっているんだろう。
もっと、ちゃんと稼がなきゃ。
空き時間を作ってなんとか入れている接骨院のバイト代だって微々たるものだし、マクセさんのお手伝いも、(正式なスタッフではないから当たり前なんだけれど)お給料なんてあるわけがなくて。
でも、大阪の学校での活動に関しては交通費や宿泊費を負担して貰っているから、ほぼタダで勉強しているのと同じだ。
本当ならお金を払って学ばなければならないところを、こんな待遇……恵まれているなぁと心から思う。
ただでさえそんな好待遇の中に居るのに、更に涼太にまでお金を使わせるなんてとんでもない、とは思っているんだけれど……ちゃんとお支払いをさせてくれたのなんて、数える程だ。
「みわはいいんスよ」
「よっ、良くないよ! じゃあ、今日の宿泊代は私が」
「あ、ちゃんとお泊まりするって分かってくれてんスね」
今度こそ、顔の上で噴火が起きたかと思った。
予定の時点で宿泊する事を予め伝えられていた気もするし、されてなかった気もするし、アルコールの回った頭では正常に記憶を読み込む事が出来なくて。
「だっ、て、車、飲んじゃったら乗れないし」
なんとか絞り出したものの、主語とかそういうものが全部なくなった会話に、涼太はクスクスと笑いながらワイングラスに口をつけた。