第82章 夢幻泡影

「みわ、ガッコ休みの間になんか特別な予定あるんスか？」

涼太は何事もなかったかのように、お話の続きをしてくれる。
回らない口の潤滑油になるかと思って、白ワインをひとくち口に含んだ。

「特別な……あ、ゼミの子に飲みに誘われてるの。この間来れなかった教授が今度こそ来るって」

「へえ、みわはあんまりそういう集まりに行かないっスよね」

「うん、出来るだけ出席出来ればと思ってはいるんだけれど、なかなか優先する事が出来なくって」

……時間がない、訳では決してない。
ただ、項目として並べられた時に、つい他を優先させてしまうというか……。

「いいんじゃないスか。もし本当に行きたいとなったら、どんな用事があろうとも都合付けるでしょ」

「うん……」

涼太の言う通りだ。
本当に行きたいなら、涼太とのこのデートのように、なんとしてでも時間を空ける。
そうじゃない、という事は自分の中でもきっとそれほど重きを置いてないんだろうな……。

誘ってくれる皆には、申し訳ないんだけれど。

「仲良いコとかいるんスか？」

「うーん……仲良し……一応たまにお茶したりとかはあるんだけれど、お休みの日にふたりでお出かけする、とかはなかなかないかな」

こうして振り返ると、あきのようなお友達って、他にいないなぁ。
簡単に出来るようなものとも思えないし、作りたいという訳でもないのが現状で……。

そう思うと、私って本当に余裕ないなぁ。

涼太も顔は広いけれど、プライベートの時間を割くような友人というのは少ない気がする。
いやいや、ただの友達が少ない私と同列にしちゃ失礼だ。

「信頼できる人間なんて、ほんの少しでいいんスよ」

信頼出来る人間は、ほんの少しでいい。
悪意のある言葉じゃなくて、経験からくる言葉だ。
だから涼太の言葉って、こころの奥底に響く。