第82章 夢幻泡影
「みわの手、つるっつる」
「あの……多分、涼太の指がつるつるだからそう感じるんじゃないのかな……」
冬場よりマシだけど、乾燥しやすいし水仕事が多いから、つい手がカサカサしてしまう。
普段から気をつけてクリームを塗るようにしているけれど、涼太の手の美しさとは比べ物にならないよ……。
「いやこの、しっとり吸い付くような感じが」
「う、あ、あの、涼太、ここお店っ」
動揺して制止してから気が付いた。
別に、何をしているわけでもないのに、何を勘違いしてるの。
手が触れ合ってるだけなのに過剰反応して、笑われちゃう。
「なーに、意識しちゃってんスか?」
「うっ、ごめんなさい、なんか気持ちよくなっちゃってドキドキしてすごい勘違いだったの」
アルコールでぼんやりする頭で慌てて返したら、なんだか言わなくていい事まで言った気がする。
「勘違いなんスか?」
「う」
お酒の入った涼太は、なんかいつもと雰囲気が違う。
切れ長の瞳は水を張ったみたいにつるりと艶めいて。
見ていると、吸い込まれてしまいそう。
「……なんかすげー、抱きたくなった」
「だ」
「部屋、行こっか」
涼太の言葉が全部カタカナに変換されてしまって、最初は何を言われているのか理解出来なくて。
「よ、酔ってる! やっぱり酔ってる! お水、お水貰おう」
酔ってる、そうだ涼太はやっぱりまた酔っ払ってしまったんだ。
重なった手は、さっきよりもずっとずっと熱い。
「行く?」
「まっ、まだ、おしゃけがっ」
か、噛んでしまった。
ダメだ、この雰囲気にいつまで経っても慣れない。
このひととそういう事をしたのはもう数え切れないほどのはずなのに……。
だめだめ、深く考えると余計に混乱する!
「ぷ、おしゃけがね、まだ残ってるっスもんね、はは」
涼太は笑いながらそう言って、髪をかきあげた。