第82章 夢幻泡影
「みわのその目が、好きなんスよね」
「え……?」
私の、目……?
こちらを覗き込むようにしている琥珀色の瞳の引力が強くて、視線を逸らす事が出来ない。
「なんか決意したよーな、強いの」
「う……ごめんなさい、考えごとしちゃってた」
いけない、ついまた考え込んでしまった。
涼太は、私の思考がどこかに飛んでいってしまっているのに気がついてたんだ。
「みわにさ」
「はいっ」
「オレだけ見てて欲しいっていうのもまー……ウソじゃねえスけど、やっぱり前を向いてるみわが好きなんスわ」
「……へ」
まえ?
す?
「自分でもなんでこんな夢中になってんのか……分かんないんスけど」
「えっ、え」
なに、なに?
涼太はゆっくり、歌うように言葉を紡ぐ。
「好き、なんスよ」
そう言ってワイングラスを傾け、そっと口を付けて喉を潤す姿が、妖艶なんて単語では表現しきれないほどに色っぽくて。
今、映画を観ていたんだっけ?
いやいや、そんなわけもなくて。
「めちゃくちゃ好きで……好きすぎてー……」
「りょ、涼太、酔ってるでしょ!」
語尾がとろけるホワイトチョコレートのように甘い。
きっとパークを歩き回って疲れているところにお酒を飲んでしまったから、酔いが回ってしまったんだ。
「いや、全然」
「酔ってる、すごい酔ってる! 前もこんなことあったもん!」
以前酔っ払った時みたいに、目の縁がほんのり赤く色づく……というのはないみたいだけど、とにかくこれは酔っているせいだろう。
もしかしたら起きたまま夢を見ちゃってるのかもしれない。
「酔ってないって」
涼太の大きな左手が、カウンターに置かれていた私の右手に重なる。
「みわはホントに、夏でも冷えてんスねえ」
長い指が、手の甲の筋を撫でるように動く。
触れるか触れないかのその微妙なタッチ……気持ち良くて、変な気分になってしまいそうだ。