第82章 夢幻泡影
「最近感じるんスよ、"今"は"今"しかないって」
「今しか……」
「今この瞬間に思う事も、言いたい事も、行きたい場所も、来年の今日もおんなじ状態でおんなじ事を思ってるかって言ったら、そんなの誰にも分からないじゃないスか」
確かにそうだ。
同じ環境、同じ気持ちでずっといられるなんて、分からない。
……ううん、同じ気持ちでいられるとしても、きっとその気持ちの内容っていうか……内訳みたいなものはその時の状況に左右されるものなんじゃないかって、思う。
体調だってそうだし、自分だけじゃない、周りの環境だってそうだろう。
同じ一日なんて、この先の人生きっとない。
そんな見えない未来に"想い"を預けるのは、なんとなく無責任な感じがしてしまう。
「そう思ったら、"今"しかない"今"は、"今"やんなきゃ意味ねーな、ってさ」
「うん……」
人間なんて、いつ死ぬか分からない。
もしかしたら今日この帰り道で……なんて事もあるかもしれないし。
涼太の言いたい事、すごくわかる。
今は今しかないんだ。
「で、オレは今、みわと休日を過ごしたいなって思ってんスよ」
「う」
……涼太は、やっぱり上手だ。
こう言われたら、断れないもの。
「……ありがとう……じゃ、じゃあ涼太に無理ない程度で……温泉とか、かなぁ」
「温泉?」
無理なくゆっくり出来る所、そして身体の疲れが取れる所……と思って、安易に答えてしまった。
彼と過ごした温泉宿でのあれこれが、まるで走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
「あっ、うそ、やっぱり温泉は無しで!」
「ナシなんスか?」
くつくつと肩を揺らして笑っている涼太は、本当に楽しそうで。
結局、次のお休みはどちらかのおうちでゆっくりしようと決まるまで、ずっと涼太は笑ってた。