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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第82章 夢幻泡影


「疲れちゃったっスかね」

この質問が、私がついた大きなため息のようなものが原因だと気がつくのに、数秒の時間を要してしまった。

「……あっ、違うよ! なんか、噛み締めてしまったというかなんというか」

ん?と少し首をかしげながら微笑む涼太は、ランプの灯りの影響なのか、いつもよりも陰影が濃く、深くて、絵画みたいだ。

「楽しんで貰えてるなら、良かったっスけど」

「うん……すっごく、楽しい」

口当たりの良いカクテルは、お喋りをしながら少しずつ飲んでいたつもりなのに、あっという間に底をついてしまった。

「次、何飲むっスか」

「うー……ん」

開いたメニューに目を通して、アルファベットとカタカナの羅列に視線を走らせても、なかなか脳みその中に保存された情報と結びつかない。
お酒を飲むようになったものの、まだ回数なんて片手で足りる程度だし、味の違いも分からない。

ビールは少し苦かったとか、日本酒はお酒って感じだったとか、カクテルはジュースみたいっていう抽象的すぎるものしかなくて。

「……おまかせしたい、って言ったら困る?」

「ぜーんぜん。じゃ、オレがテキトーに頼むっスね」

「うん、ありがとう。お願いします」

涼太はメニューに目を通すと、さして迷う事なく注文を済ませてしまった。

「今度、どこ行こっか」

「……このお店を出たら?」

「ううん、次の休み」

「……? おうちでゆっくりしなくて、いいの……?」

今日は特別だ。
こうやってネズミーランドに連れて来て貰って……でも涼太はまた明後日から忙しい日々。

お休みの日は身体をゆっくり休める時間なのに。
それに彼のことだ、練習以外にもきっと沢山の予定があるに違いない。

「うん、みわとあっちこっち行きたいんスよ。ふたりにしか分かんない想い出作りたいって言うか……あんまうまく言えないんスけど」

また、何か気にさせてしまっているんだろうか。

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