第82章 夢幻泡影
「満ち欠けによって姿を変える神秘的な月は、穏やかで、でも確かな光を湛えながらそっとそこに居てくれる……彼女さんから感じる、そんなイメージからです」
「すげえ、分かるっスわそれ」
「え、ええ!?」
神秘的……光……聞いていて申し訳なくなるくらい、私とは縁遠い単語だ。
「また、月は、太陽の光を受けて光を放ちます。そして……月がなくては、地球は太陽光の影響で生物が住める環境にはならなかったであろうと言われています。おふたりはどちらとも、お互いがなくてはならない存在なんだと、そう思いました」
強すぎる光は、濃い影を生む。
分かる……バーテンダーさんの言葉は、凄く分かりやすくて、こころにストンと入ってくる。
「なんか、照れるっスねえ」
「うん……あ、ありがとうございます」
「いえ、とんでもないことでございます。こんなにもお似合いのおふたりのカクテルを作ることが出来、大変光栄に存じます」
なんだかお話が壮大すぎて、申し訳ない気持ちになってしまう。
でも、私の隣にいる……涼太は、本当に大きなひとだから。
バーテンダーさんが"黄瀬涼太"の事を知っているかどうかはわからないけれど、こういう評価をしてもらえる事はとっても誇らしい。
「それでは、失礼致します。どうぞごゆっくりお過ごし下さい」
「ありがとうございます、いただきます」
バーテンダーさんが去っていくと、眼前にはふたつ並べられたカクテルと、パークの夜景、大きな窓の上部には月が見える。
そして……右隣には大好きな気配。
こんな贅沢な環境で弄月なんて、どれだけ贅沢なんだろう。
「みわ、乾杯しよっか」
「うん」
乾杯、と言いながらグラスを傾けて、そのままゆっくりと口へ持っていく。
爽やかなグレープフルーツのような風味に、少しの甘みもある。
鼻から強く抜けるようなアルコール感はなくて、とっても飲みやすい。
ああ、幸せだな。
思わず、深く呼吸した。