第82章 夢幻泡影
涼太はグラスと私、交互に視線を送りながら、吹き出した。
「ぷ、なんスかみわ、その顔。なんだっけ、ハトが豆食うみたいなやつ」
「……は、鳩が、豆鉄砲を食ったよう、かな……」
「そそ、それそれ。何そんなに驚いてんスか?」
「え、だって……」
だって、あんまりにも想像だにしていなかった言葉で。
驚くしか出来ないよ。
「向日葵は、太陽の光をたっぷりと浴びて、その喜びを表すかのようにスッと背筋を伸ばし、どこまでも真っ直ぐに大きく大きく育っていく……それが、彼氏さんとぴったり重なりました」
ああ……その表現、とっても良くわかる。
涼太は誰にも縛られず、強くて大きくて美しい。
出会う人間を全て、魅了していくひとだ。
「対して、彼女さんの笑顔は、こちらまで幸せになるようなあたたかさで。滲み出る包容力は、空から照らしてくれる太陽そのもののようです」
「そんな……」
そんな、大それたものじゃない。
太陽だなんて。
それなら、ハロゲンヒーターと言われた方がずっとしっくりくるくらいなのに。
「おふたりの幸せそうな雰囲気は、見ているだけでこちらまで幸せをお裾分けして頂けたかのような気持ちになります。彼氏さんや彼女さんの、本当に本当に嬉しそうな表情は、どんな芸術品よりも"絆"というものを感じさせて下さいました」
「なんか、嬉しいっスね」
「……うん……」
嬉しいどころの話じゃない。
なんだか胸に込み上げてきてしまう。
「不思議なのは、彼氏さんは太陽にも見えるという事です。強い光で皆を導いてくれるような」
「……ええ、本当に、そうです」
うん……そう。
涼太は、太陽だ。
いつもいつも、私を強く温かい光で前へ前へと導いてくれる。
「そして、天体に詳しい身でもないのにこんな事を申しまして申し訳無い気持ちもあるのですが……彼氏さんが太陽なら、彼女さんは……向日葵ではなく、月、かなと」
「月……?」