第82章 夢幻泡影
私たちが座っているカウンターには、メニュー立てと、小さな丸い、雪玉のような形のガラス製のランプ。
ガラスは磨りガラスみたいになっているから、中に火があるのか電球があるのかははっきりしないけれど、灯りは時々ゆらゆらと揺れている。
なんだか、その淡い光が気持ちをとっても落ち着かせてくれる。
香りだけじゃなくて、光もこころに作用するんだな……。
「お待たせ致しました」
大した時間も経っていないのに、バーテンダーさんはすぐにグラスを持って戻って来てくれた。
テーブルにそっと置かれた黒いトレイに乗っているのは……百合の花びらみたいに、口の部分が大きく開いているグラス。
グラスの中には、白に近いくらい明るい薄黄色のカクテルと、もう片方はオレンジに近い濃い黄色の液体が入っている。
「綺麗……」
「どっちも黄色なんスね。どういうイメージなんスか?」
「はい、先ほどお話をお伺いし、おふたりのご様子を拝見致しまして……わたくしには、おふたりが太陽と向日葵のように感じました」
太陽と……向日葵。
おひさまに向かってぐんぐん伸び、華麗な花を咲かせる……向日葵? 私が?
アリさん、じゃなくて……?
「あ、確かにその感じ、分かるっスわ」
ええ?
涼太はそんな事を言っている。
私はあんまり、ピンと来てないんだけれど……。
失礼致します、と言ってバーテンダーさんは私たちそれぞれの前にグラスを置いてくれた。
涼太の前には濃い黄色のグラス、私の前には明るい黄色の……あれ?
「あの……これって、こちらが太陽では、ないんでしょうか……?」
てっきりお話を聞いて、明るい黄色は太陽なのかと思ってた。
でも、太陽は涼太なんだから、つまりそうするとこっちのグラスが向日葵で……?
「はい、お客様のグラスは太陽をイメージしたカクテルでございます」