第82章 夢幻泡影
「わあ……綺麗」
気が付けば天井だけじゃなく、エレベーターのドア部分や壁にまで、星を模したキラキラが散りばめられてる。
蓄光シールとかの原理だろうか。
涼太には、いろんな星空を見せて貰ってる。
すごい、こんな所にもあったんだ。
普段乗るエレベーターよりも速度がゆっくりなそれは、10階へ辿り着くと、お喋りしている私たちをそっと吐き出した。
エレベーターの外は、よくあるエレベーターホールではなくて、部屋の中だった……というのも、あたりを見渡して、部屋の真ん中にエレベーターがあるつくりになっているのだとようやく初めて気がついたんだけれども。
室内の明度は低く、照明は天井にあるシャンデリアが微かに光っているだけで、あとはぽつぽつとランプのようなものが点灯しているだけ……なんだか、大人の社交場って感じの雰囲気だ。
エレベーターのすぐ脇に小さなカウンターがあって、ピシッとしたスーツを着た係員さんが、いらっしゃいませ、ご案内致しますと言って歩き出した。
「なんだか、凄いね」
「オレも来たのは初めてなんスよ」
ん、と促されて、部屋の暗さに助けて貰いながら、彼と腕を組んだ。
まだ一滴も飲んでいないのに、とってもドキドキする。
通されたのは、カウンター席だった。
とは言え、隣とは敷居みたいなものがちゃんとあって、確保されたプライバシーは、個室となんら変わらない。
目の前はガラス張りで、向こう側にはライトアップされたパークが見える。
涼太の左側へ着席して、暫くその光源たちに視線を奪われていた。
「なんか気になるの、ある?」
お酒に全く詳しくない私に気負わないようにそう声をかけてくれ、目の前に広げられたのは革製の表紙の細長いメニュー。
もうすでに、ほっぺたが熱い。