第82章 夢幻泡影
「さっきとおんなじ質問になるんスけど、ハラ減った?」
「あ……ううん、なんていうか胸いっぱいで、あんまり」
「そうっスね、オレもがっつりって感じの気分じゃないスわ……じゃ、軽く飲みに行こっか」
「うん!」
予定が直前に決まったから、パークレストランは既に満席で事前予約が出来なかったんだって、お店で並んで待たなきゃいけなかったみたい……涼太はごめんと謝ってくれたけれど、そうやって気遣いしてくれたことが何より嬉しい。
でも、予約してなくて丁度良かったかもね、なんて話しながら向かったのは、パーク内にある塔のような建物。
1階にはフロントのようなカウンターと、エレベーターホールがあるだけ。
内装は、朝お買い物をしたお店のようなシックなブラウンで、あまり華美な装飾品などは置いてない。
数人お客さんはいるけど、年齢層は高めで、皆しっとりと落ち着いた雰囲気だ。
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
カウンターでは人数を聞かれて、アルファベットの書かれたプレートを受け取ると、そのままエレベーターホールへ案内された。
アルファベットは、"A"だった。
「ふふ、エースの涼太にぴったりだね」
「オレやっぱ持ってるっスわ〜」
そんな風に笑いながら乗り込んだエレベーター内は、部屋と同じブラウンで統一されていた。
いつもは深呼吸をしてからでないと乗れないエレベーターも、涼太と一緒だから大丈夫。
ドアが閉まると、10階が自動で点灯して……突然、エレベーター内の照明が消えた。
「わっ、えっ、停電!?」
「いや、エレベーターは上ってるっスよ」
「……本当だ」
突然真っ暗になったから動揺してしまったけれど、涼太の言う通り、エレベーターは上昇を続けている。
驚いたのも束の間、頭上からの光に気がついて見上げると……天井が、星空になっていた。