第82章 夢幻泡影
どれくらいの時間が経ったか、目の前を横切るパレードの波が去っていくと、辺りに宵闇と喧騒が戻ってきた。
明かりは街灯と建物から漏れ出るものだけとなり、さっきよりもすごく暗く感じる。
「だーいじょうぶ、っスか」
小さく耳元で落とされたその声は、とっても優しくて。
こんなふうに泣いてしまうの、今日だけで何回めだろう……慌てて数回頷くと、太い指が下まぶたをそっと撫でた。
「あの、これはその」
「んなの言わなくても分かってるって」
「う」
この、甘くとろけるような声に弱い。
耳からしゅるりと入り込んでくるそれは、簡単に私の中で色んなものを麻痺させてしまうんだ。
涼太の胸と密着した背中が……燃えるように熱い。
「みわ」
「あっ」
言葉通り、あっという間に呼吸を奪われた。
背後から覗き込むようにしてきて、そのまま唇が重なる。
木陰に居るおかげで、多分……他のひとには気付かれていない、と思う。
重ねるだけの軽いくちづけかと思っていたのに、唇の間から、ぬるりと温かいものが侵入してきた。
「ん、んん……」
油断していたからか、さっきまで興奮状態にあったからか、まるで体内で爆発が起きたかのように、体温が急上昇していく。
腰に、力が入らない。
温度を上げていく熱が腰椎を溶かしてしまったのかと錯覚してしまうほどに、がくりと力が抜けた。
「おっと」
私の異変に気が付いた涼太の腕が、がっしりと私の腰を固定してくれた。
「まーだ早いっスよ」
「ごめ、ん……」
心臓がおかしなくらい跳ねてる。身体中の血液が顔に集まっているんじゃないかってくらい、熱い。
「メシ、食いに行こっか」
「うん……」
そう言われて再び繋がれた手に、顔を上げられないままゆっくりと頷いた。