第82章 夢幻泡影
「ん、じゃこの話はオシマイ。お楽しみはこれからなんスから、ね」
そう言いながら爽やかに微笑んでから、そっと頬にキスをするまでの動きが流れるようで、動けぬままいると気が付けば涼太は隣に座っていた。
うん……まだ、少しドキドキする……けど、今日は出来る限り隣で楽しもう。
「折角買ったんスから、冷める前に食べよ」
「あ……うん、ありがとう」
そう言えば、涼太は何かを買って来てくれてたんだ……彼の手には、パステルカラーのビニール袋。
「いくらだった?」
涼太は笑みを崩さぬまま首をふるふると左右に振って、袋の中を探り始めた。
う……今、お金は受け取って貰えなそうだ。
彼はいつも頑固だから……後で休憩する時に、今度は私が出そう。
ガサガサと乾いた音の後に出てきたのは……飲み物がふたつと、長細くて茶色くて、白い粉みたいなものがかかっている……パンみたいな食べ物?
「これ、なぁに? クッキー?」
「知らないんスか? チュロス」
その可愛らしい音の単語に、記憶回路がかちゃんと音を立てる。
「あ……知ってる。食べた事あるのは、もっと短いやつだった」
そういえば、あきと入ったカフェで食べた事があった。
シナモンの香りが鼻腔を擽る。
周りについていたのはお砂糖だったみたいだ。
「たまに食べたくなるんスよね」
「そうなんだね。美味しそう……いただきます」
まだ温かいからか、生地はとっても柔らかくて、以前食べた物とは全くの別物みたいだ。
香ばしいシナモンと優しいお砂糖の味と生地に練り込まれたチョコが合わさって、絶妙な美味しさ。
「美味しい!」
「うま」
美味しいね、って言い合いながらする食事って、なんて楽しくて嬉しくなるんだろう。
いつも、涼太には幸せな時間を貰ってばかりだ。