第82章 夢幻泡影
口づけの合間に感じる吐息……当たり前なんだけれど、今ここに涼太が生きているという証。
贅沢な欲望は、彼の気持ちを吸ってひとりでにこんなにも肥大化していくなんて、知らなかった。
気が付けなかった……ううん、気が付いていたのに、目を背けて居たんだろうか。
自分の気持ちが、分からなくなる。
大好きで大好きで大好きなのに、伝えられない。どうしたらいいのか、分からない。
このひとがいなくなったら、どうなるのか分からない。
「無理に言えとは言わないっスから……でも、なんか不安なら、ちゃんと言って」
「……ごめん、なさい……うまく、言えなくて」
間近に迫った瞳は、仕方ないなと言っているかのように、緩んだ。
「オレはみわといるトコを誰に見られても、全然困んない。むしろ見てって感じっスわ」
「そんな……」
涼太があの時、彼女と一緒に居ると告げていたら、その後どうなっていたか。
そんな事ばかりが頭をもたげて。
「もうモデルとして活動してる訳でもないし……今はバスケ選手の黄瀬涼太、なのはみわが一番よく分かってくれてるっスよね」
「……うん」
そう、バスケ選手の黄瀬涼太。
でもこのひとの存在は、きっと彼が思っているよりもずっと大きい。
黄瀬涼太を必要としているひとは、数え切れないくらいいるだろう。
「雑誌とか、テレビとかそういう仕事も多いけど、それはメインじゃないし、オレはそれがなくなってもなんにも困んない」
ああ、こんな事を言わせたいんじゃないのに。
もっともっと、涼太には沢山の可能性があるから。
「みわが泣いたり寂しがったりしてる方が、ずっと大問題なんスよ」
その優しさに甘えるのは本当にこれで、最後にするから……。
改めて抱いた誓いを胸に、大きな手を強く握った。