第82章 夢幻泡影
彼と出会ってからの数年間、事あるごとに考えて、ウジウジ悩んで。
「みわは、何が怖いんスか?」
私を真っ直ぐ見据える目から、視線を逸らしたくない。
きちんと受け止めて……そう、きちんと受け止めたい。
「わたし、は……」
何が、怖いんだろう。
私が恐れているのは、何?
形すら見えなかった未来が、涼太と出会えて、変わったんだ。
少しずつ、最初はぼんやりとしていた輪郭が段々とハッキリしてきて。
私が恐れているのは……涼太に迷惑がかかること。
うん、それは、疑いようのない事実だ。
でも、その気持ちの裏側にはどんな気持ちが存在していた?
潜在的に考えてしまっているのは、どんな可能性だった?
「わたし……」
目を、逸らしたくない。
この輝きを、1秒だって見逃したくない。
それなのに、視界が滲んでくる。
鼻から供給される酸素量が減ってなんだか息苦しいし、目頭が熱くなってきた。
零れてしまいそうな言葉を、必死に飲み込む。
こんな事、伝えたって涼太は困るだけだ。
あったかくて大きな手が、頬を包み、ごつごつしている長い指の指先が目尻を撫でる。
「涼太……」
「困らせるつもりは……なかったんスけど」
涼太の指先が左右に動いて、頬に濡れた感触を感じて……膜が張っているようだった視界がクリアになる。
「いつも隣に居て欲しいって、言ってんじゃねえスか……」
彼の指先が触れていた部分に、柔らかい唇が触れる。
そのまま頬を伝って、ゆっくりと私のそれに、重なった。
涼太と一緒に居られなくても、彼が輝いていればいい?
そんな事を言っていたくせに
私は彼と一緒に居られなくなる事を
何より恐れていたんだ。