第82章 夢幻泡影
このテーマパークの建物は全てが作り物で、目の前を流れる川も勿論そうなんだけれど……まるで海外に来てしまったみたいにリアルな風景に、現実感があるようでないような不思議な感覚。
涼太は、私を座らせた後に隣に座る……のかと思いきや、そうじゃなかった。
彼は私の両肩をそっと掴み、そのまま顔と顔の距離を縮めてくる。
「あ、あの」
「さっきの……みわの気持ち、ムダにしたくないから乗ったっスけど」
「う、うん、ごめんなさい私咄嗟に良い案が思い浮かばなくて」
「そうじゃなくて」
う……ち、近い。
涼太の琥珀色の瞳の中に、私の影が映ってる。
いつも、諭される時はこうだ。
「みわ、オレ達がこうして遊んでるのは、いけないコトっスか?」
「いけない事……じゃないよ。いけないわけ、ないよ。涼太だって、普通に遊園地で楽しんで欲しいよ」
「そうじゃ、なくて」
さっきと同じセリフなのに、今度は何か言い含めているような、そんな語調に変わった。
「オレが、みわと恋人同士のデートをするのは、いけないコトなんスか?」
その問いの可能性は、考えてなかった。
有名人な涼太だって、他の皆と同じように楽しむ権利があるって、それは言い切れるんだけど……
「……あ、え……っ、と……それは」
「それは?」
涼太が、私と並んで、ネズミーランドで恋人同士の時間を、過ごす……
「……あんまり、良くない、事のような、気がしてる……」
涼太は、胸を大きく上下させて、深いため息をついた。
「オレはさっきの女のコ達に、言おうと思ってたっスよ。彼女待たせてるからゴメンって」
「えっ」
「だってそうっスよね? 隠す必要なんてどこにもないじゃないスか」
……返す言葉が、ない。
自分のこころの中が、整理できない。
「ねえ、みわ。みわは何をそんなに怖がってるんスか?」