第82章 夢幻泡影
『スターリースカイ・コースターへようこそ!』
可愛らしい声とともに、私たちの乗車したコースターが動き出す。
すぐ落下したらどうしようと少し不安だったけれど、そんな事もないみたいで安心した。
また、コースターはトンネルへ。
真っ暗な空間を抜けると、目の前に広がったのは……夜空だった。
「わ……空……!」
暗闇から少しだけ明度を上げた視界には、満天の星。
いつかふたりで見た景色には敵わないけれど、キラキラと瞬く光たちに、思わず感嘆の声が漏れ出てしまう。
まるで、本当に夜……いやいや、今は朝だからそんな訳はないんだけれど……陽が落ちた水平線を彩る赤なんて、現実世界に忠実すぎて。
いつの間にか、安全バーを強く握っていた右手の上に、あったかくて大きな手が被さってきた。
案の定座席は真っ暗だから、顔ははっきり見えないけれど……見えない筈なのに、どうしてだろう。
涼太が今、どんな表情をしているかが手に取るように分かる。
あの、ほっと胸があったかくなるような微笑み。
「綺麗だね、涼太!」
「うん、キレイっスね」
にこにこ、まるで喜ぶ子どもを見守るお父さんみたいだ。
「コースターって言うから、なんかもうちょっと、ビューンって感じなのかと思っ」
「じゃ、みわ、これからが本番っスよ!」
ガクン、コースターが揺れて、身体が斜め前に傾いた。
え?
「えっ、なに、もしかし」
て、まで言い切る前に、横切る景色の速さが変わった。
胃がひゅんと持ち上がったような感じになったと思ったら、落ち……
「……ひ、ぃ……っ」
そこから先は声すらまともに出せること無く、気がついたらコースターは終点で静かに停止した。