第82章 夢幻泡影
「あ、涼太見てあそこ、さっきのリスさんが踊ってるよ」
「ホントだ、すげえ軽快なステップっスね」
「涼太、お花も踊ってる!」
船の速度はだいぶ落ちて、オブジェを見ながら広大な空間を進んでいると、少し前と後ろにも、同じようにお客さんが乗っている船の姿が見えることに気がついた。
……ううん、さっきからそうだったのかもしれないけれど、全然気がついてなかった。
隣の涼太を見ると、肩を震わせて笑っている。
もしかして、こんなにはしゃいでるのは私だけだった!?
「あ、の、涼太ごめんなさい、騒いで」
「いや〜、良かったっスわ」
「え?」
「あ、みわ、ホラあそこ」
「わっ、わっ、しゃぼん玉出てきた、わ、綺麗」
その後も結局、船が再び係員さんのいる降り口に到着するまで興奮しっぱなしで、涼太の先ほどの発言を言及するタイミングがなくって。
「ありがとうございました!」
「こっ、こちらこそ!」
自分でも何故だか驚いてしまって、朗らかな笑顔でそう言ってくれた係員さんに勢い良く返したら、係員さんにも涼太にも少し笑われてしまった。
「みわ、写真撮ろ」
「あっ……うん」
「みわは相変わらず写真撮るの苦手なんスね」
「あの、嫌とかじゃないんだけど、どんな顔すればいいのか分からなくて」
「別に作んなくてもいいんスよ、はいチーズ」
肩を突然引き寄せられて、頬に柔らかな肌の感触を感じたと同時に、涼太の手にあったスマートフォンがポロンと鳴った。
「あっ、今、今絶対半目だった!」
「だいじょぶだいじょぶ」
手を伸ばしても、涼太の長い腕の先に届く訳がなくて。
「今日はいっぱい写真撮るっスよ!」
そう言って微笑んだ涼太は、きらきら、おひさまみたいだ。
「……うん!」
写真……あんまり得意じゃないけれど、全部全部、涼太との想い出になるんだ。
それがとっても、嬉しくて。